3Dプリントの技術は建築業界で大活躍!?活用事例や導入のメリットなど解説
立体的なものを作り出せる3Dプリントの技術は、今や様々な分野で活用されています。
そのうちの一つに建築業界。
建築業界では3Dプリントの技術はどのように活用されているのでしょうか?
本記事では、3Dプリントについて
・3Dプリントの技術が建築業界に導入されるようになったきっかけ
・3Dプリントの技術を建築業界に取り入れるメリット
・3Dプリント技術の建築業界に取り入れるデメリット
・建築業界における3Dプリント技術の活用方法
などを解説します。
建築業界の方で、これから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方は、ぜひ最後までご覧ください。
3Dプリントとは
「3Dプリント」は、「積層造形」とも呼ばれ、デジタルなモデルに基づいて材料を重ねていくことで、物理的な(3D)オブジェクトを作成することを指します。
材料のブロックから削り出して最終製品を作成する切削加工とは異なり、積層造形では材料を付加していくことで最終製品を作り出していくプロセスです。
3Dプリントは、専用のソフトウェアを使用して行います。
個人用から業務用まで幅広い設定に対応しているため、様々な用途に利用することが可能です。
個人的な用途としては、カスタムメイドのアイテムを作成したり、教育用のモデルを作成したり…といった用途に利用されます。
プロフェッショナル向けの用途としては、医療分野ではカスタムメイドの医療用補装具や、自動車・航空宇宙分野のプロトタイプ、軽量構造、建築分野ではモデルやコンポーネントの製造に使用されることが多いです。
3Dプリントの技術が建築業界に導入されるようになったきっかけ
2003年、建築業界を驚かせる前代未聞の論文が発表されました。
それが「3Dプリンターで建物をプリントする」という技術です。
このアイデアの生みの親は、南カリフォルニア大学教授、ベロック・コシュネビスで、イラン出身の彼は若い頃革命を経験し、それ以来、貧困や戦災、自然災害などで家を失う人々を見て心を痛め続けてきました。
彼らに安価で安全な住居を提供したいと考えていたベロックは、注目されていた3Dプリンターの技術を応用して、被災地などの仮設住宅を超スピードでつくろうと閃いたのです。
さらに3Dプリントの技術が建築業界に本格的に導入されるようになったきっかけとして、建築業界が抱える問題があります。
建築業界には、技術的、経済的、環境的なさまざまな課題があります。
これらの課題は、プロジェクトの成功や効率に大きく影響を与えるため、解決が求められています。
以下に、建築業界でよく見られる代表的な課題を紹介します。
・建築コストの上昇
・工期の長期化
・人材不足
それぞれを詳しく見ていきましょう。
建築コストの上昇
近年、建築業界では建築コストの上昇も問題視されています。
建築コストは、主に労務コストと資材コストの2つに分けられます。
労務コストは、人件費や社会保険料などの労働力にかかわる費用で、資材コストは、建築に必要な資材や設備、機器などの購入にかかる費用です。
これは建築業界の人手不足が労務コストの上昇の原因と考えられています。
若い世代が建築業界に進みにくくなっている近年、職人の需要が高まり人件費が高騰しています。
また、人材が不足した状態では工期の延長をせざるを得ないシーンも多く、工事コストの上昇にもつながっているといえるでしょう。
更に、世界規模での建設需要の高まりにより資材コストが上昇しています。
工期の長期化
建築現場では、さまざまな施工プロセスを経て建築物が建てられていきます。
例えば、鉄筋コンクリートの建築物の一般的な施工では、型枠にコンクリートを流し込んだ後は固まるまで待たなければなりません。
固まったあとは、型枠を解体し破棄する作業もあります。
いくつもある施工プロセスのうち一つでも遅れが出れば、全体の工期が遅れてしまう要因になります。
このような遅れを取り戻すために、これまでは長時間労働や休日労働などが行われてきましたが、人材不足や働き方改革による労働時間の改善などが重なり、今後は工期の長期化が問題視されるようになると考えられています。
人材不足
近年、日本全体で少子高齢化が問題になっており、建築業界でも就業者の高齢化による労働人材不足が問題視されています。
建築業就業者の人数は、1997年の685万人をピークに、現在は減少傾向にあります。
また、2015年時点の就業者のうち約34%は55歳以上と、約3人に1人が55歳以上であることから、労働者の高齢化が進んでいるといえるでしょう。
建築業界は、汚い・きつい・残業が多い・安月給などネガティブなイメージをもたれやすく、若い世代が敬遠してしまい、新しい人材の確保が難しいことも人材不足に影響しています。
近年、外国人労働者を積極的に採用する動きをみせていますが、円安により外国人労働者も減少傾向にあるようです。
3Dプリントの技術を建築業界に取り入れるメリット
ここでは、3Dプリントの技術を建築業界に取り入れるメリットについて解説します。
具体的には以下の通りです。
・建築期間の短縮
・デザインの自由度が高い
・コストの削減
・人材不足の解消
それぞれを詳しく見ていきましょう。
建築期間の短縮
建築期間を短縮できる点が、3Dプリンタのメリットと言えるでしょう。
3Dプリンタは機械なので、24時間にわたって休むことなく稼働させることができます。
そのため、例えば住宅などの建築物を、早くて数時間、あるいは数日で建築することが可能です。
一方、人間の力で住宅を建設する場合、一日中働き続けるということはできません。
ずっと働き続けると疲れを感じてしまい、集中力が持続しなくなってしまうためです。
休まずに稼働できる3Dプリンターを使えば建築期間を大幅に短縮できるので、災害などで家をすぐに欲しい人の仮住まいとして将来的に期待されています。
デザインの自由度が高い
3Dプリントの技術を駆使することで、従来なら実現できなかった曲線の斬新デザインの家づくりが可能になりました。
実際に建てられた3Dプリント住宅を見ると、独創的なフォルムで、人手で施工するには手間やコストが掛かりすぎて現実的ではなかった曲面や空洞がある建物もたくさんあります。
コストの削減
3Dプリントの技術を導入して建てられた住宅のメリットは、建築費用が低価格に抑えられる点が挙げられます。
通常の建築工法の場合、工場から壁や柱などに使われる資材を運搬する必要がありますが、3Dプリンター住宅の場合、3Dプリンターを現場に運んでその場でパーツを作ることが可能です。
重量のある資材を運ぶ必要がないので、運搬費や人件費を大幅に抑えることができるのです。
したがって、一般的な工法の住宅と比較すると、3Dプリンター住宅は大幅に建築コストを抑えられます。
さらに、3Dプリンター住宅の主な材料はバイオセメントやコンクリートなので木材を仕入れる必要がありません。
通常、住宅を建築するに当たり、木材の存在が不可欠です。
しかし、木材は需要が高まって不足してしまうと価格が高くなります。
一方、3Dプリンター住宅であれば木材をそれほど使わないので、木材市場に左右されることがありません。
木材価格の高騰の影響を回避しながら家を建てられるので、価格を抑えられるということです。
人材不足の解消
3Dプリント技術が建築業界において人材不足解消の一助となる点もメリットとして挙げられます。
建築現場では、特に熟練労働者の不足が課題となっていますが、3Dプリント技術の導入はこの問題に対して次のような解決策を提供します。
・自動化による労働力の代替
・少人数でのオペレーション(運用)が可能
・ 熟練労働者の依存を軽減
3Dプリント技術は、建築業界における人材不足の解消に大きな効果を発揮します。
自動化による労働力の代替、少人数でのオペレーション、工期の短縮、熟練労働者への依存の軽減など、さまざまな側面でこの技術は有効です。
特に労働力が限られている状況や、急速な建設が必要な場合において、3Dプリント技術は重要な解決策の一つとして期待されています。
3Dプリント技術の建築業界に取り入れるデメリット
ここでは、3Dプリント技術の建築業界に取り入れるデメリットについて解説します。
具体的には以下の通りです。
・耐震性が十分でない
・住宅設備の設置が高コスト
それぞれを詳しく見ていきましょう。
耐震性が十分でない
3Dプリンター住宅のデメリットというと、建築基準法に対応していないケースが多いことが挙げられます。
従来の建築方法ではコンクリート造りの住宅の場合、強度を高めるために壁の内部に鉄筋を入れる必要があります。
しかしながら、現在のところ、3Dプリンターではコンクリートで形を積み上げていくことはできますが、鉄筋を入れることができません。
日本といえば地震が発生することが非常に多いので、安心して生活するためには大きな地震にも耐えられる強固な基礎が不可欠です。
ただ3Dプリンター住宅では鉄筋を入れることができないので、建築基準法に対応しきれていないというわけです。
すなわち、現状では耐震性が十分ではないので、一般の住宅を建築することができません。
住宅設備の設置が高コスト
3Dプリンター住宅は、電気やガス、給水や排水などの住宅設備に対応していないのもデメリットと言えるでしょう。
電気やガスなどの設備を設置する際には、壁に穴を開ける、配管や配線を行うなどの細かい作業を行わなければなりません。
すべて職人の手に頼らなければいけないので、その分、時間と手間がかかるのがデメリットです。
建築業界における3Dプリント技術の活用方法
ここでは、建築業界における3Dプリント技術の活用方法について解説します。
具体的には以下の通りです。
・建築物の施工
・建築模型の製造
それぞれを詳しく見ていきましょう。
建築物の施工
3Dプリント技術を活用した建築物の施工は、従来の建設プロセスとは異なる方法で建物を作り上げることが可能です。
この技術は、設計の自由度、効率化、持続可能性を向上させるため、建築業界での活用が進んでいます。
日本は地震が多い関係上、建築物の強度や素材、工法が建築基準法にて厳しく定められており、建築物を3Dプリンターで印刷するのが困難です。
しかし、床面積10平方メートル以下の建築物は建築基準法の対象外となるため、実は過去に小型の住宅やトイレが3Dプリンターを用いて建築されています。
また、2022年2月には日本国内初の建築許可を得た3Dプリンター建築がされており、今後の建築業界による3Dプリンターの発展に期待がかかります。
建築模型の製造
3Dプリンターは建築用としてだけでなく、一般的な熱溶解積層方式などの3Dプリンターを用いて建築模型を作るのにも活用されています。
従来はスチレンボードやアクリルなどを切り貼りして製作されていましたが、3Dプリンターの普及により、CADデータがあれば自動で建築模型を製作できるようになりました。
また、3Dプリンターでの建築模型製作は、手間がかからないだけでなく、納期の短縮や人件費・材料費のコストを抑えられるのもポイントです。
まとめ
今回の記事では、建築業界の方でこれから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方向けに
・3Dプリントの技術が建築業界に導入されるようになったきっかけ
・3Dプリントの技術を建築業界に取り入れるメリット
・3Dプリント技術の建築業界に取り入れるデメリット
・建築業界における3Dプリント技術の活用方法
などを解説しました。
日本は地震が多い関係上、建築物の強度や素材、工法が建築基準法にて厳しく定められており、建築物を3Dプリンターで印刷するのは現状では困難ですが、今後の3Dプリントの技術の発展により容易になるかもしれません。
さまざまな業界で活用されている3Dプリントの技術が今後どのように発展していくかを期待したい所です。
本記事が建築業界の方でこれから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方の参考になれば幸いです。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。