3Dプリント技術で食品が変わる!注目の理由や課題など解説

立体的なものを作り出せる3Dプリントの技術は、今や様々な分野で活用されています。

そのうちの一つに食品業界。

食品業界では3Dプリントの技術はどのように活用されているのでしょうか?

本記事では、3Dプリントについて

・3Dプリントの技術が食品業界で活かされる分野

・3Dプリントの技術を食品業界に活かすメリット

・3Dプリントの技術を食品業界に活かすうえでの課題

などを解説します。

食品業界の方で、これから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方は、ぜひ最後までご覧ください。

3Dプリントとは

「3Dプリント」は、「積層造形」とも呼ばれ、デジタルなモデルに基づいて材料を重ねていくことで、物理的な(3D)オブジェクトを作成することを指します。

材料のブロックから削り出して最終製品を作成する切削加工とは異なり、積層造形では材料を付加していくことで最終製品を作り出していくプロセスです。

3Dプリントは、専用のソフトウェアを使用して行います。

個人用から業務用まで幅広い設定に対応しているため、様々な用途に利用することが可能です。

個人的な用途としては、カスタムメイドのアイテムを作成したり、教育用のモデルを作成したり…といった用途に利用されます。

プロフェッショナル向けの用途としては、医療分野ではカスタムメイドの医療用補装具や、自動車・航空宇宙分野のプロトタイプ、軽量構造、建築分野ではモデルやコンポーネントの製造に使用されることが多いです。

3Dプリントの技術が食品業界で活かされる分野

ここでは、3Dプリントの技術が食品業界で活かされるようになったきっかけや分野について解説します。

具体的には以下の通りです。

・きっかけは宇宙食

・介護食

・避難所

それぞれを詳しく見ていきましょう。

きっかけは宇宙食

実は3Dプリントの技術を使って食品を生み出すきっかけとなったのは、宇宙食でした。

2018年に宮城大学食産業学群教授の石川伸一氏や山形大学の古川英光氏が入っているオープンミールズというグループが、宇宙でお寿司を印刷して宇宙飛行士が食べる動画を発表しています。

3Dプリントでの食品の研究スタートは宇宙食向けなので、宇宙などの調理環境が整っていない場所で食品を作り出せるとなると、これからどこででも食を楽しめる可能性が広がりますね。

介護食

3Dプリントの技術が最初に普及する場所は介護施設とも言われています。

食品業界での可能性として、特定のものしか食べられない高齢者の方向けによりおいしいものを作る手法として3Dプリントが活躍するかもしれません。

また、介護施設では利用者の方が食べるものは人それぞれに合わせて作られており、とても手間が掛かっています。

そういうところで3Dプリントを活用できれば、調理の手間も軽減できる可能性が期待できるでしょう。

避難所

3Dプリントの技術が活きるのが、防災食や災害食の場であるとも言われています。

自然災害などで食べ物がないとき、普通の食事をするのが難しいですよね。

流通が止まって食材も限られているような災害時にこそ、個別化された、その人にとっておいしく感じる「普通の食事」を3Dプリントの技術を駆使して提供できれば、足りない栄養素も補給できるし、心も温まるはずです。

3Dプリントの技術を食品業界に活かすメリット

ここでは、3Dプリントの技術を食品業界に活かすメリットについて解説します。

具体的には以下の通りです。

・食品の自由度の向上

・食品業界における製造コスト削減・人手不足改善

・食感や形状を調節できる

それぞれを詳しく見ていきましょう。

食品の自由度の向上

3Dプリントの技術は、樹脂造形などを行う従来の3Dプリンターと同じように、複数の材料を使って立体的に積層を行うなどして、自由度の高い食品を製造することが可能です。

チョコレート細工のようにデザイン性も重視したスイーツを作る場合でも、3Dプリントの技術を駆使すれば、人間の手では造形が難しい食品でも製造が可能になります。

また、機械による製造のため、同じ原材料や出力設定、互換性のある食品用の3Dプリンターがあれば、全く同じレシピの再現も期待できるでしょう。

食品業界における製造コスト削減・人手不足改善

3Dプリンターは、データさえあればそれを活用して物を作り出すことができます。

つまり、データを保存し活用できる点は製造コストの削減や人手不足など業界の課題に対する解決策としても注目されているのです。

また、データと素材さえあれば、3Dプリンター1台で様々な料理を提供することもできます。

さらに、多種多様なデザインの食品が開発・製造できるだけではなく、大量の食品を製造することも可能となるので、開発・製造コストの削減につなげることも期待できます。

また、複雑なデザインの食品でも、機械であれば製造工程でのミスも発生しないので、食品ロスの削減にも大いに役立つでしょう。

食感や形状を調節できる

食感や形状をある程度自由にコントロールできるという3Dプリント技術の利点は、様々な分野で活用されています。

【スイーツ】

嗜好品においては味のみならず、見た目の面白さも重要となります。

とある食品用の3Dプリンターは、チョコレートをインクとして用い、高精細な立体構造を作成できるので、見た目も楽しめるスイーツの1つとして新たな可能性を提示しました。

【嚥下食】

介護施設などで作られる嚥下食についても今後が期待されています。

新型コロナウイルスの流行期には、一部患者の症状として嚥下障害が問題となりました。

のどの痛みをかばって通常と異なる呑み込み方を繰り返すうち、食べ物を上手く呑み込めなくなるという症状です。

嚥下障害は高齢化に伴う機能低下や、認知障害、のど周辺の炎症や外科手術などによっても発症します。

こうした嚥下障害を有する患者向けの食品として、流動性を調整し、呑み込みやすくした食品があります。

ただし、従来のものは種類も少なく、味気ないものになりがちでした。

3Dプリントの技術を活用すれば、個々の症状や好みに応じた柔らかさ、味を持つ食品を提供することが可能です。

こうした取り組みは介護や医療の現場での活用が検討されています。

【寿司】

山形大学工学部ソフト&ウェットマター工学研究室(SWEL)は寿司の3Dプリント技術について研究・開発を進めています。

既に何種類かの寿司ネタをプリントしており、出力された寿司を1m程度離れたところから見れば本物に見えなくもありません。

3Dプリント寿司は食べる人の好みに合わせて味や食感を調節できることも特徴です。

まだ試験的な取り組みですが、3Dフードプリント技術向上に貢献し、新たな価値を発掘することに期待が集まっています。

【培養肉】

アレルギーや宗教的理由などにより、特定食品の摂食を避ける動きは世界的な広がりを見せています。

2050年カーボンニュートラル実現に向けては畜産業の環境負荷も課題として挙げられており、こうした問題を解決する手段としても代替食品産業は追い風を受けてきました。

一言で代替食品と言っても様々ですが、その中の1つとして培養肉が挙げられます。

培養肉は動物から摂取した細胞を培養槽の中で増殖させ、それらを本物の肉のように加工したものです。

栄養は本物の肉と等価でありながら、将来的には畜産に関わる諸々のコストを削減できる可能性があります。

現状は主にコストが原因で商業化には至っていません。

3Dプリントの技術を食品業界に活かすうえでの課題

ここでは、3Dプリントの技術を食品業界に活かすうえでの課題について解説します。

具体的には以下の通りです。

・使用する材料に制限がある

・調理ができない

・柔らかい食材の制御が難しい

・機械を使用するための知識が必要

それぞれを詳しく見ていきましょう。

使用する材料に制限がある

現状、3Dプリンターで食材を扱う場合はペースト状の材料が主であるため、使える食材が限られてしまいます。

また、材料として使用するには、食材をそのまま使うのではなく、ペースト状に加工する準備・工程が必要です。

食材をそのまま利用することができないため、材料の準備に手間がかかる点はデメリットとして挙げられるでしょう。

調理ができない

現在販売されている食品用の3Dプリンターの多くは、調理を行うことができません。

そのため、3Dフードプリンターで製造した食品を焼いたり煮たりする必要があるので、別に調理をする手間がかかります。

製造から料理の提供まで、すべての工程を自動で行えるように、メーカーが研究開発を行っています。

軟らかい食材の制御が難しい

食品用の3Dプリンターは、ペースト状の材料を使用する関係上、食品の製造後に軟らかさにより自重で横に広がったり、食品下部の材料が潰れてしまったりといった問題があります。

樹脂素材などを用いる一般的な3Dプリンターは、製造後すぐに冷えて固まりますが、ペースト状の食材を材料とした3Dフードプリンターでは、樹脂などのように固まるわけではありません。

また、温度を高くしていると食材が劣化しやすく、雑菌も繁殖してしまうなど、衛生面の課題もあります。

機械を使用するための知識が必要

食品用の3Dプリンターを運用するには、食品のレシピだけでなく、プリント機器の使用方法や、機械にトラブルがあったときの対処法などの知識が求められます。

仮に3Dフードプリンターにトラブルがあると、対処するまで食品を提供できないのもデメリットです。

また、導入後にはメンテナンスを行わなければならないため、そのための知識と技術も求められます。

まとめ

今回の記事では、食品業界の方でこれから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方向けに

・3Dプリントの技術が食品業界で活かされる分野

・3Dプリントの技術を食品業界に活かすメリット

・3Dプリントの技術を食品業界に活かすうえでの課題

などについて解説しました。

食品の3Dプリント技術は、チョコレート細工などの人間の手では難しい食品や、要介護者のために栄養や硬さを調整した食品などの製造に適してます。

しかし、食品の3Dプリント技術は発展途上の分野のため、樹脂や金属素材を用いた3Dプリンターと比べて普及していないのが現状です。

食品の3Dプリント技術はまだ手軽に導入することは難しいですが、食品用の3Dプリンターが広く普及すれば、多くのメーカーが参入するので、価格競争によって本体の価格も下がることが期待できます。

食という生活に欠かせない点において3Dプリンターが活躍することで、多くの人に3Dプリンターのメリットに気づいてもらえるチャンスでもあるため、さらなる技術の進歩を期待したいところです。

本記事が食品業界の方でこれから3Dプリントの技術を導入したいと考えていらっしゃる方の参考になれば幸いです。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。